ハイドロプレーニング現象におびえながらハンドルにしがみついて、弁当を届ける。
インディヴィのボルドーシャツとミッシェルクランのスウェードスカート、オシュコシュboysの迷彩レインブーツで公民館まで歩いていると、背後から友の車が追い抜いて行く。
10年前の発表会の打ち上げ写真に、黒いおぞましい網トップスの私たちは隣同士、大口を開けて笑っている。
友「私は7年前。わかる?部分切除で左右の大きさが違っちゃった」
すかさず「違うでしょ〜」の横ヤリが入る…。
私「インポート専用のあなたとAカップの私が、平等だね。理屈では大きさは関係ないとわかってても不思議!」
あの頃、彼女のひたいはケロイドみたいにただれていたし、声ももっと暗かった。
秋らしい譜面が配られ、終始マイナーコードがV系名古屋黒服の怪しい節回し。ラピュータ……笑。
ちいさいAkiちいさいAkiちいさいAkiみーつけた
と脳内変換して歌っていた。
午後は大雨洪水注意報でヒマ。トリュフォー映画「アメリカの夜」DVDを観る。
英国女優役のジャクリーンビゼットが、ひときわ美しい名作でオススメ!
恋人に裏切られた若手俳優に同情して、二人で逃げ出そうとほだされたものの、「精神科医の夫は妻子を捨ててまで私を救ってくれたから、離れられない」と一夜限りの関係のあと、エンパイアスタイルのネグリジェの上にカーキ色のトレンチコート、ベルトをキュッと締めて、そろそろと男の部屋を出て行く後ろ姿のセクシーなこと。
親子ほど年の離れた夫の役柄は父親へのオマージュだろうし、母はフランス系だというから、アングロサクソンとラテンのいいとこ取りだ。
「料理長殿、ご用心」の知的なヒロイン役でもボーイッシュなショートウィッグで元気に飛び回り、女癖の悪い前夫に迫られてついベッドイン……こういうのは監督の理想なのか。
デンツ (五)
3年生に進級した征三朗さんが教育実習へ、2年生の興子が大学付近の会計専門学校にも通い始めると、以前のようには会えなくなりました。
同級生が行く行くは官僚だ、マスコミだと色めき立つなか、征三朗さんはドーナツ現象の都内の中学校で大半を過ごし、合間に詩を書いたり、詩人の会で弾き語りをしていました。
久しぶりに連絡を取り合ってドライブデートの日、髪を切った興子は隣で鼻歌を歌います。
「俺さあ高校生のとき、寄宿舎を友だちと抜け出して、夜に電車に乗って、セイコちゃんのコンサートに行っちゃったんだよ。ビックリしたな!想像よりもっと色白で足がキューーーっと細くて眩しくて……あああ、もう二度と、あんな可愛い人は出てこないだろうな」
「芸能人が選ぶ一番可愛い芸能人が、セイコちゃんだって。きみもセイちゃんだ」
あの大学の学生には選民意識があるみたいで、サークル内で議論する先輩がたも就職に関して高望みするようです。
そして最終学年になったものの、就職がきびしい現実をご両親ともに目の当たりにし、白紙答案を提出して留年しました。これからは現役卒業生枠で競うことになる中、ダブルスクールの興子のほうが夏に内定をもらいました。