猛暑の白×ブラウン

a0263388_16034030.jpeg
早起き、スクールバスでオープンスクールに親子参加。志望校3校を回るレポートが課題だが、気温34度超えの移動がそれを阻む。

それでも希望を見出そうと、茶道部でおうすをいただいたり、自販機クッキーの素人ぽい焼き上がりに驚いたりした。



a0263388_16574955.jpeg
コーラ

焼香を済ませたグループは、遅いあなたをお清め会場で待ちわびていた。

この顔ぶれの大半に、生前のパパがイベントで面通ししておいてくれたから、向こうが私を覚えていなくとも皆と似たような速度で老けてゆく己を実感し、再会の会話に臆することなかった。

ドーベルマンみたいだった男の子が大人になっていて、私を呼び止める。
「大学生の親になるって想像つかないや」
「男の子の親はさみしいわ。さんざん心配掛けさせられて、彼女に取られちゃう」

今の私と同い年で亡くなったという母親の病状や、昨今のフラワーデザインの話題に感心する一方で、私は夏越しに成功したワスレナグサを思い浮かべていた。


予測に反して色白のままで現れたあなたが笑顔で差し出すグラスに、そのアーモンドアイを覗き込みながら「おつかれさまでした」と注ぎ終えるまで願う。
この世のどこかに悪態をつかない、もう一人のあなたがいる事。
公の場であなたにお酌するのは、これが最初で最後の気がするから、腑に浸み渡らせるようにしてね。

伸びかけの前髪が揺れている。一昨年からある頬のシミは私とお揃い……なんて喜んでもいられない。白は滑らかな白いままでいて欲しい。

彼女がもしこの光景を見たら、テーブルの寿司桶ごとひっくり返しそうなくらいの勢いだろうから、今のうちに握り寿司も頬張って見せてはくれまいか。


ジミーチュウやマノロにルブタンで武装したところで、私は綺麗な幻や夢の女にはなり得なかった諦念と引き換えに、吐き気とめまいが失せた。

目の前で身振り手振りを交えて囁き合うあなたとピカは、相も変わらず魂のふたごのようで、パパが私に用意してくれたギグに思える。

かつて暗がりで私を撥ね退けたり、包み込んだりした両の掌は、礼服だらけの明るい部屋では膨らんで見える白いパッケージだ。


パパの親族がドリンクの瓶片手に、テーブルごとに挨拶して回ると、さっきまで自分と同世代のPTA役員と「歌わないほうが良かったかもね」「お酒、強くないくせにへべれけになりながら、指令を飛ばすの」「さりげなく自慢しに来てた」「事あるごとに褒めてもらいたがってたわ」などと知られざる思い出話に湧いたのに、遺族用に改めて笑顔を作りなおすひとときに変わった。

「あいつは酒ばっかり。ご迷惑をかけませんでしたか、あなたにとてもお世話になったそうで」
返答を求めるほうも求められるほうも嫌だろうけれど。あなたが答えながら涙を浮かべる顔は、笑顔よりさらに良い。

拍子抜けするほど声が若々しい両親と美しいきょうだいが、ひたひたとテーブルに寄せては機敏に離れる度に(パパと同じぜい肉のない身のこなしだ、と)反射的に涙腺が緩む。
今は悲しみよりも(なぜ、親や年長のきょうだいよりも早く…という)口惜しさのほうが勝っている。

しょせん愛は欲情が変形したものに過ぎず、愛情は手の届かぬ清流だった。


焼香を終えた華奢な背中に、お疲れさまでしたと声を掛ける。振り向いた彼女が露骨に嫌そうな顔を向けた。

(俺の通夜に女同士のバトルは無しだ)
棺に眠るパパの口元が緩んでいる。

私は寡婦を取り巻く輪に加わると、最後の挨拶をした。



コーラ
(了)


[PR]
by kimawasanai_2 | 2016-08-21 20:05 | ベーシックカラー

着まわせない主婦が組み立てる、ワードローブ