好みとは違うから今まで知り得なかったバンド、お久しぶりのバンドがわんさか。10周年の完結にふさわしいメンツそろい踏み。初めての声、初めてのリズム……うきゃきゃ。翌朝が早いからガーゴイルまで観て帰った。
秋風に、浴衣のたもとと裾を揺らして歩く。ハコ帰りの私にしては早い、22時の地元駅に着いてから問題がっ。
マイカーを停めてある時間極駐車場までの道すがら、国道交差点にかかる歩道橋を渡る事になる。
日中、駅へ向かう階段はなんてことないのに、深夜の帰り道などは(酔っぱらいや痴漢出没の)嫌な予感がして、なるべく200メートル先の横断歩道まで遠回りするようにしていた。でも、子の就寝前に間に合わせるために歩道橋を選んだ。
階段を上がりかけた場所で、左足の引き攣れを起こしたとき(わっ、これがこむら返りかアイタタタ…)、階段の頂上にグレーのダスターコート(ダルコート)の右半身が見えていた。暗くてボトムスが見えないが、細身の勤め人の男物コートだと合点する。
(向かいのビルの塾講師や塾生とすれ違うなら安心だわ…)
手摺りにつかまり、左足をかばうように伝い歩きで再び上り始めると、右側も引き攣れて歩けなくなった。両足の付け根まで内側にねじれ上がるような痛みに声も出せず、これは這い這いをしてでも引き返すべきだと思った。
振り返ると、秋風にコートの前立てと裾は揺れておらず、持ち主の中身が見えぬのが不思議だ……忘れ物として掛けておかれたかのような、静止画像の切れ端。
(あの人は何でこっちに降りて来ない?何で反対側の階段を降りようとしない?)
学生時代、私の車に同上した3人の同級生全員が、
「さっき、踏切のわきに白っぽい服の女がうずくまってたよね…」
「やっぱり?お腹が痛くてうずくまってるのかなと思った…」と口々に言っても、私だけが知らないくらいニブいのだが。
過去に一度、変な体験をした。大雨の深夜、この歩道橋ですれ違った眼鏡の中年男性は傘もささず、左右どちらの階段も降りずに消えた。街をずぶ濡れで歩いている若者も見かけたし。消えた…は言い過ぎにしても、男の背中を見送る事はなかった私は首を傾げたままでいた。
昔、この歩道橋から投身自殺した若い勤め人の死亡記事を新聞で読んだが、心霊スポットで有名な歩道橋ならば、もっとずっと先だ。
やはり変質者が上で待っているのではないか、とまで思えて来た。
(不良主婦が突き落とされでもしたら、いい笑い者だ……)
残り6段ほど、お尻で階段を下りる覚悟で歩行を試みた。いちかばちかでガードレールを踏み越えて、自転車通行マークを渡った。渡りきれなくてパトカーにでも咎められたら、救急車を呼んでもらおう。
渡り終えると足の痛みは引いていて、運転して帰宅。