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シャツの色味と髪

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朝一番、8時半に髪を染めてもらった。
「昨年と同じ配分なら無問題」と言い切る男性スタイリストに、イヤイヤとゴネる。

「この前は冬物コートから浮かないように、こっくりしたチェリーブラウン。でも今月はパステルカラーを着たいからシャツの色味に近づけて一段軽くして」と頼む。

当然、まえの暗い色に明るい色を掛け合わせてもピンキッシュブラウンにはならない。根元から裾へのグラデーションカラーで折り合う。室内照明でほんのりピンク程度が顔色も良く見えて、落ち着く。



暗黒王子 (八)

ライブに行けない代わりに、他のインディーズバンドも私にサンプルCDを送って来てくれた。
Kの癖のない丁寧な文字は、それだけで人格的に有利に思われるほど綺麗だ。他のバンドマンの宛名書きは縦長文字だったり、極細ペン文字の過剰なまでにハネやハライが目立った。

受験とは違い、大人の手紙文字はハネてはいけないという。スポットライトを浴びる人種には見栄っ張りが多いのだろう、と思った。

「あの手紙をペン習字のテキスト代わりにしていました」
「ええっ」
「社会に出て字を注意されたんです。仕事が早ければ良いってものでもない、って。私の家系はみんな乱筆で諦めていました。でも横に並べて気長に真似するうちに、母に書きなぐる癖が抜けたと褒められました」


上階の物販会場を冷やかしてフロアに戻ると、DJブースのケントがA-haのテイクオンミーをかけて大合唱の最中であった。さらにSHOと祐介が加わり3人によるDJファーファが、キュアーのフライデーアイムインラブで盛り上げた。

これらの名曲がヒットチャートを賑わす頃、まだ彼らは産まれていなかった。私が当たり前のように聴くより何倍も、異端児3人の耳には甘美に響いているのだろう。
まっとうな、はるかにそれ以上の教育を受けたこの人たちが人生を変えてしまうまでにあの時代の音に耽溺するのは、気の毒な気もする。

ニューオーダーで踊り納めながら、ステージ用のポジパンメイクを施したHの顔が浮かんだ。爪にはファンからもらった黒いネイルが塗られ、ラメで重たげなまぶた。黒いネットシャツの長い袖口と、元気な膝小僧の出た短いパンツ。骨格がガッシリで耽美とは言い難いが、「飲み放題だから人がこんなに来たんだよ」とご機嫌だった。

「この前のギグ、Kの銀色のドレスがスペーシーな曲のイメージにピッタリでした。顔が小さいからな」

まだまだ不具合の多いデジカメが普及しておらず、Hのウェブサイトは文字の羅列だった。デザイン事務所を経営する友人ですら事務所の宣伝画像用に、のんびりNack5ラジオにリクエストしながら新製品のスキャナをかけていた。

朝5時を回る頃、アズテックカメラのウォークアウトとぅウィンターの軽快なギターポップでイベントは終了した。

「15年。何はともあれ、元気そうで良かった」
「あのときハッキリ言ってたわ。女子高生やおばあさんに接する日常があるからこそ、異常な詞が書けるって…」

「まあ僕らは不完全なものに美が宿るでやってきたから。バンドやってるときはスマパンなんて大嫌いだったんです。みんなが良い良いというアルバムを。それが今は聴きますからね」

「ジミーの抜けた、打ち込みドラムのダメなADOREが一番好き。たまたま聴いた時期が初秋だから余計にハマったのね」
「アドーア。他愛ないことでもメールして下さい」
「何でもない日常にこそフェテッシュは転がっている。ええ、でもくだらないメールはしないわ」

夜明け前の緊張感で神経がピリピリする中、女性の集団にはぐれないように坂道を登った。


暗黒王子
(了)


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by kimawasanai_2 | 2015-03-22 12:46 | 顔色補正

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